職種別の平均年収|業界ごとの傾向とその理由
目次
1. はじめに
日本における平均年収は、長く横ばいまたは微増傾向が続いていると言われています。その背景には、バブル崩壊後の長期不況やデフレ環境の継続、労働市場の構造変化、企業の業績不安など、さまざまな要因が絡んでいます。一方で、職種ごと・地域ごとに焦点を当てると、想像以上に大きな差があることもわかってきます。例えば、同じ「営業」という職種であっても、東京と地方都市では平均年収に大きな開きがあったり、ITエンジニアの平均年収は都市部で顕著に高い傾向があったりなど、就業エリアによって収入格差が表れるのです。
また、テレワークや副業解禁など、働き方が多様化している昨今、従来の職種区分では把握しづらい新たな職業形態も生まれています。しかし、本稿では比較対象を明確にするため、あくまで厚生労働省や民間の給与調査などにおいて一般的に分類される「主要な職種」にフォーカスし、さらに地域別(首都圏・関西圏・東海地方・地方都市)に分けて平均年収を俯瞰していきます。
この記事を通じて、読者の皆様がご自身のキャリアや転職活動を考える際の参考になる情報を提供できれば幸いです。また、企業が採用戦略を立てる際にも、地域ごとの平均年収動向や職種別年収の差異を理解することは、人材確保の観点から重要だといえるでしょう。
2. 平均年収を語る上での前提条件と注意点
2-1. 統計データ・調査レポートの違い
平均年収のデータソースとしては、大きく分けて以下のようなものがあります。
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厚生労働省が公表する賃金構造基本統計調査(賃金センサス)
全国の事業所を対象に調査しているため、サンプル規模が大きく信頼度が高いという特徴があります。一方で、調査対象となる事業所の規模によっては平均賃金がやや低めに出る可能性がある点も認識しておく必要があります。 -
民間給与調査会社や転職サイトの独自調査レポート
比較的大手企業や都市部の優良企業のデータが中心になりやすく、平均賃金が高めに出る傾向があります。特にハイクラス向け転職サイトの調査では、サンプルが高年収層に偏りがちです。 -
企業の有価証券報告書や就職四季報など
個別企業ごとに平均年収を公表しているところもありますが、役員報酬や特定の高所得部門の給与が合算されている場合もあり、実態と異なる数値を含んでいることがあるので注意が必要です。
本稿では、このようなデータを横断的に参照しながら、大まかな傾向を述べていますが、実際に就職・転職の際には、企業ごとの詳細情報や最新の調査レポートを必ずチェックするようにしましょう。
2-2. 地域ごとの定義について
本稿で扱う地域区分は、以下のようにざっくりと分類しています。
- 首都圏: 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県など
- 関西圏: 大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県など
- 東海地方: 愛知県、岐阜県、三重県、静岡県など
- その他の地方都市: 北海道、東北、中四国、九州など、上記以外のエリア全般
この区分は便宜上のものであり、実際には同じ県内でも政令指定都市とその他の地域で差があるなど、より細分化されます。たとえば愛知県の場合、名古屋市を中心とする都市部と、それ以外の地域で大きく給与水準が異なるケースがあります。その点も含め、以下の記述はあくまで大枠の参考値として認識してください。
2-3. 職種分類の考え方
日本の雇用市場においては、職種や職務内容は多岐にわたりますが、本稿では以下の主要職種に焦点を絞ります。
- 営業職
- IT・エンジニア職
- 事務・管理職
- 専門・技術職(製造・建設・研究開発など)
- 医療・福祉職(看護師、介護士、薬剤師などを含む)
これらは多くの統計データでも大分類として取り上げられやすく、かつ就労人口も比較的多い職種です。もちろんこの他にも、接客・販売職やクリエイティブ職、公務員など、職種別に細かく見ればたくさんのカテゴリーが存在しますが、すべて網羅すると膨大な内容となるため、ここでは特に人材需要が高く、社会的にも重要度の高いとされる職種をピックアップしています。
3. 営業職の地域別平均年収
3-1. 営業職全般の年収水準
営業職は、企業の売上に直接関わる重要なポジションであり、固定給に加えてインセンティブ(歩合)などの報酬制度が取り入れられていることが多いのが特徴です。そのため、同じ企業内でも営業成績の優秀な人材ほど年収が大きく上振れする可能性があります。逆に、成果が出なければ他の職種よりも収入が低くなる可能性もあるため、平均年収を算出する際にはバラつきが大きいという点に留意しましょう。
総合的に見て、営業職の全国平均年収は400~500万円程度とされることが多いですが、企業規模や業種によってはさらに上振れするケースもあります。例えば、大手メーカーの法人営業や不動産会社の営業では、インセンティブ次第で年収1,000万円以上を狙えることも珍しくありません。一方、中小企業や地方の企業では、固定給中心で300万円台にとどまるケースもあり、格差が比較的大きい職種と言えます。
3-2. 首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉など)の営業職
首都圏は、大企業の本社や外資系企業が集中しているため、営業職の求人も豊富であり、平均年収水準も高い傾向にあります。特に東京23区内に本社を構える大手企業では、法人営業でも平均年収が500~600万円台に達することが多く、インセンティブ込みで700万円以上も珍しくありません。また、外資系企業の営業職は、英語力や専門知識を求められる一方で、成果報酬が手厚いケースが多いため、上限はさらに高くなる可能性があります。
ただし、首都圏は生活コストも高いため、同じ年収でも手取りから家賃や生活費を差し引くと、地方都市の年収400万円と体感的にはあまり変わらないといった意見もあります。転職や就職の際には、年収の数字だけでなく、物価水準や通勤時間なども総合的に考慮する必要があるでしょう。
3-3. 関西圏(大阪・京都・兵庫など)の営業職
関西圏では、大阪がビジネスの中心地となります。首都圏に次いで大企業の支社や地域拠点が集まっており、営業職の平均年収も全国的に見れば比較的高めです。平均では400~500万円台が多く、首都圏と大きく差があるわけではありません。特に、商社や製造業の本拠地も多いため、業界によっては首都圏よりも好条件を提示する企業もあります。
一方で、企業規模が中小中心となる場合は、固定給が比較的低くインセンティブで稼ぐというケースが多いため、平均年収は一気に下がり300万円台となることもあります。大阪に限らず、京都や神戸なども含め、地域によって企業集積の度合いや産業構造が異なるため、同じ関西圏でも職種や業種選びによって年収水準はかなり変動する点に注意が必要です。
3-4. 東海地方(愛知・岐阜・三重・静岡など)の営業職
東海地方、とりわけ愛知県(名古屋市)には製造業を中心に大手企業や関連企業が多く集積しています。自動車メーカーや航空機関連企業など、世界的に競争力を持つ企業が集まるため、そのグループ会社や子会社での営業ポジションは比較的高年収が期待できます。平均的には400~500万円台が多く、業績好調な企業ではさらに上乗せされるケースもあります。
また、大手企業の下請けや関連会社が数多く存在する一方で、地場の中小企業も多いため、営業職としてのキャリアを積むうえでは多種多様な選択肢があるのが特徴です。名古屋市内で勤務する場合は都市部のメリットを享受できますが、地方に行くほど競争力が低下し、平均年収も下がる傾向が見られます。
3-5. その他の地方都市における営業職
北海道や東北、九州、四国などの地方都市では、首都圏や大阪、名古屋と比べると大企業の拠点数が少なく、総じて営業職の平均年収水準はやや低めになります。具体的には300~400万円台がボリュームゾーンとされ、地域によってはさらに下回るケースもあります。ただし、地元の地方銀行や地場の有力企業においては、平均年収が比較的高めに設定されているところもあり、一概に「地方は低い」とは言い切れません。
加えて、営業職の特色として、地元のネットワークや人脈を活かして成果を上げやすい業種であれば、インセンティブを通じて高年収を得ることができる可能性もあります。地域密着型の金融機関や医療・福祉関連、あるいは地元産業と連携する営業職などでは、独自の強みを活かすことで他の地域にはない魅力的なキャリアを築ける点も見逃せません。
4. IT・エンジニア職の地域別平均年収
4-1. IT・エンジニア職全般の年収動向
IT・エンジニア職は、世界的なIT化の波を受けて常に需要が高まっている職種の一つです。プログラマーやシステムエンジニア、ネットワークエンジニア、データサイエンティストなど、専門分野ごとに要求されるスキルが多岐にわたるため、年収レンジも幅広くなっています。日本国内の平均年収では450~550万円程度とされることが一般的ですが、AIやビッグデータ、クラウドなど新技術を扱えるエンジニアは、さらに高い年収を得やすい傾向にあります。
一方で、下請け構造の多いシステム開発企業では、中小企業・零細企業が多く、思ったほど年収が伸びないケースも指摘されています。特にプログラマーとしてキャリアを始める若手層は、最初の数年は300万円台の年収でスタートすることが珍しくありません。経験を積むことで収入アップが望めるとはいえ、スキルのアップデートが得意な人材とそうでない人材で差がつきやすい職種だと言えます。
4-2. 首都圏のIT・エンジニア職
IT・エンジニア職は、やはり首都圏に求人が集中しています。外資系IT企業から国内大手SIer、スタートアップ企業まで幅広い選択肢があるため、特に東京23区内では年収相場が高めです。たとえば、大手IT企業やメガベンチャーでは平均年収が600~700万円台に届くことも珍しくなく、30代後半から管理職クラスになると800万円~1,000万円を超える例も見られます。また、高度な専門スキルを持つエンジニアは、フリーランスとして活動し、年収1,000万円以上を稼ぐことも十分に可能です。
ただし、都市部には優秀な人材が集中しやすいため、企業側が採用競争に勝つために高水準の給与を提示している背景もあります。また、東京の生活コストや家賃が高い点は営業職と同様に考慮する必要があります。リモートワークやテレワークが普及してきたことで、都市部に住まなくても高年収の仕事に就くことができる可能性が広がりつつあるのも近年の特徴です。
4-3. 関西圏のIT・エンジニア職
関西圏では、大阪市を中心にIT関連企業や支社が集まっています。首都圏ほどの規模や数ではありませんが、大手企業やベンチャー企業も少なくなく、エンジニアの需要はそれなりに安定しています。平均年収は450~550万円程度とされることが多く、スキルや経験次第ではそれ以上に十分届きます。東京ほど高い水準ではないものの、家賃や物価など生活コストを考慮に入れると、実質的な生活水準は首都圏よりも高いと感じる人も多いでしょう。
また、京都や神戸にもIT企業や研究開発拠点が点在しており、大学や研究機関との連携を深める企業も増えています。AIやロボット工学など先端技術の研究が盛んな関西圏においては、専門性が高いエンジニアには高待遇が用意される場合もあり、転職市場でもある程度の需要が見込まれます。
4-4. 東海地方のIT・エンジニア職
東海地方は製造業の集積地として有名ですが、それに伴うIT化やIoT関連の需要も増加傾向にあります。特に名古屋市や豊田市などでは、自動車メーカーやその関連会社を中心にITソリューションが求められており、エンジニアへのニーズは少なくありません。平均年収としては400~550万円程度が目安となりますが、大手企業の開発拠点などに勤める場合は600万円以上も視野に入り、中には700万円~800万円台の年収を実現するエンジニアもいます。
ただし、企業によっては下請け・孫請け構造が複雑なケースもあり、同じエンジニアでも雇用形態や所属企業によって年収が大きく異なる点に注意が必要です。また、名古屋市内など都市部を外れると、IT企業の数は減少し、選択肢が限られるため、キャリア形成にはやや不利となる場合があります。
4-5. その他の地方都市におけるIT・エンジニア職
地方都市では、IT関連の求人自体は首都圏や大阪ほど多くありませんが、地方自治体や地場企業のIT化ニーズが高まっていることや、リモートワークの浸透によって地域格差が徐々に縮まっている傾向があります。平均年収としては350~450万円程度が一般的ですが、中には東京の企業とリモート契約を結ぶことで首都圏並みの年収を得るエンジニアも出てきました。
また、地方であっても特定分野のIT技術を強みにした企業や、インバウンド需要(観光業)や農業支援サービスなど地域性を活かしたITソリューションを手がける企業では、ニッチながらも高収益を上げる例があります。そうした企業においては、エンジニアの給与水準が高めに設定されていることもあるため、地方で腰を据えて働きながら安定的に収入を得たい方には魅力的な選択肢となり得るでしょう。
5. 事務・管理職の地域別平均年収
5-1. 事務・管理職全般の状況
事務や総務、人事、経理などのバックオフィス系職種は、どの企業にも欠かせないポジションですが、営業職やエンジニア職に比べて年収水準はやや低めに落ち着く傾向があります。一般事務の場合、全国的な平均年収は300~400万円程度とされ、人事や経理といった専門スキルが必要な職種になると400万円以上が期待できます。管理職やマネージャークラスになると500~600万円以上も十分可能ですが、大企業か中小企業かによって差が大きいのも特徴です。
5-2. 首都圏の事務・管理職
首都圏では、大企業の本社機能が集中しているため、事務系職種の募集も多く、高めの年収が期待できます。特に外資系企業の人事や経理、法務などは、英語力や国際的なビジネス知識が求められる一方で、500~600万円以上の年収を得られるケースもあります。一方、一般事務職においては、都市部に求人が集中するものの、応募者数も多く競争が激しいため、思ったほど年収が伸びないという声も少なくありません。大手企業の事務職であっても初任給は一般的な水準で、昇給ペースが緩やかな場合もあるため、長期的なキャリアプランを考慮した上で企業を選ぶことが重要です。
5-3. 関西圏の事務・管理職
関西圏では、大阪に大手企業の支社や関西本部が集まるため、事務・管理職の平均年収は350~450万円程度が多いようです。ただし、経理や財務など専門知識が求められる職種では、首都圏と同等レベルの年収を得ることも可能で、経験や資格(簿記や公認会計士など)を活かせば500~600万円、マネージャークラスでは700万円以上を目指すこともできます。
ただし、事務職は代替可能性が高いポジションとみなされやすく、企業によっては非正規雇用や派遣社員で十分と考えるところもあります。そのため、正社員として安定的に働き、高めの給与レンジを狙いたい場合は、早い段階で資格取得や専門スキルの習得を目指すのが得策です。
5-4. 東海地方の事務・管理職
東海地方では、製造業が盛んなだけに生産管理や購買管理など、工場や物流に近いバックオフィス業務の需要が高い場合があります。これらの職種では、業務の専門性や工場との連携スキルが求められるため、経験を積むほどに年収も上がりやすい傾向があります。一般的な一般事務職では300~400万円程度が多いとされますが、大手メーカーの管理部門に勤める人事・経理担当などは、500万円以上を得ているケースも珍しくありません。
名古屋市や豊田市など都市部近郊では、大手企業だけでなく自動車関連のサプライヤー企業が多く存在するため、事務・管理系の求人も豊富です。一方で、岐阜や三重、静岡などに行くと、地域によっては求人の数が限られてくるため、企業選択の幅が狭くなることは否めません。
5-5. その他の地方都市における事務・管理職
地方都市においては、事務系職種の求人が少なく競争倍率が高いため、正社員として働くには難易度が上がるケースがあります。また、非正規雇用や契約社員の募集が多く、時給換算だと首都圏や関西圏よりも低めになる傾向が強いです。平均年収としては250~350万円程度が多く、都市部に比べるとやや見劣りする結果となります。ただし、地元の優良企業や公的機関、金融機関などの管理部門に入れれば、比較的安定した年収を得ることができる可能性があります。
加えて、地方企業でも海外展開を行っているところや、ITシステムの導入に積極的な企業では、社内システム管理や海外取引の管理など、専門性が高い人材を求めるケースがあります。そうしたポジションに就ければ、相場よりも高い報酬を得られる可能性もあるため、地方での事務・管理職を希望する方は「どのような専門スキルを身につけられるか」を意識しながらキャリアを積むことが重要です。
6. 専門・技術職(製造・建設・研究開発など)の地域別平均年収
6-1. 製造業や建設業における専門・技術職
製造業や建設業における専門・技術職は、現場の技能を活かす職種から、設計・開発など高度な知識を要する職種まで幅広く存在します。これらの職種は、いわゆる「モノづくり日本」を支える基幹産業であり、景気やインフラ整備の需要によって大きく左右される一方、技能や資格を持つ人材は慢性的に不足しているという特徴があります。
全国平均では、製造業の現場作業員レベルで300~400万円程度、一方で高度な専門技術や管理責任を担う技術者や研究開発職では500~600万円以上も珍しくありません。大手メーカーやゼネコンでは、さらに高年収帯に入る例も見られますが、中小企業や地場企業だと300万円台にとどまることも多く、企業規模による差が顕著に表れる職種と言えるでしょう。
6-2. 首都圏における専門・技術職
首都圏には大手メーカーの本社や研究開発拠点が集まる一方で、生産拠点は地方に分散されているケースが多いです。そのため、研究開発職や設計職として東京や横浜で働きながら、実際の製造は地方工場で行うといった形が一般的です。研究開発職や設計職の平均年収は500~700万円と高めで、キャリアを積めば800万円以上も期待できます。
一方、いわゆる「町工場」のような中小企業も首都圏には多く存在しますが、これらの企業は賃金水準がやや低めになる傾向があります。とはいえ、技術力の高い下町企業などもあり、ニッチな分野で独自技術を持つ企業では高待遇が用意されている場合もあります。大手企業か中小企業かだけではなく、扱う技術や業界の将来性を見極めることが重要です。
6-3. 関西圏における専門・技術職
関西圏も大手メーカーが数多く存在し、研究所や開発部門が大阪や神戸、京都などに点在しています。製造や建設の分野でも、大阪湾岸エリアや堺市などの工業地域を中心に、幅広い専門技術者が活躍しています。平均年収は400~600万円程度が多いとされ、企業規模や職種によって上振れも見られます。特に京都には電子部品や精密機器、ロボット関連の研究開発拠点が集まっており、高度な技術を持つエンジニアや研究者は700万円以上を得ることも可能です。
また、建設分野では、関西万博などの大型プロジェクトが控えているため、今後しばらくは専門技術者や施工管理技士の需要が高まると予想されます。関連する資格を有している人材は引く手あまたの状況となり、将来的にも安定した収入を得られる可能性があります。
6-4. 東海地方における専門・技術職
東海地方は日本最大級の製造業集積地であり、自動車産業をはじめとする世界的メーカーやサプライヤーが数多く存在します。そのため、専門・技術職として働く人材の需要が高く、平均年収水準も全国平均より高めとなります。特に自動車関連の研究開発や設計、品質管理などの職種は、500~700万円を狙えるケースが多く、管理職クラスになると800万円以上も見込めます。
一方、地方に行くほど大手企業の工場や関連会社が点在しているものの、中小企業や部品メーカーなどは給与体系が厳しい場合もあり、年収が300万円台にとどまる例もあります。ただし、中小企業でも独自技術を武器に大手メーカーとの取引を拡大しているところは、相応の待遇を提供していることがあるため、企業規模だけに捉われず、事業内容や将来性を見極めることが重要です。
6-5. その他の地方都市における専門・技術職
北海道や東北、九州などの地方都市でも、地場の製造業や建設業が盛んな地域では専門・技術職の需要が安定しています。平均年収としては350~450万円程度が多いですが、大手企業の工場やプラントがある場合は、そこで働く技術者が500万円以上を得ている例も珍しくありません。また、農業・水産業と連携する食品加工やバイオ技術など、地域特産品と結びついた新分野が伸びている地域では、研究開発職が高年収を得られる可能性があります。
ただし、大型案件や産業クラスターが少ないエリアでは、専門職のキャリアパスが限られがちで、転職やスキルアップの機会が少ないデメリットもあります。そのため、地方で専門・技術職を続けるには、長期的な視点での企業選びや独自の技術を身につけることが重要となってくるでしょう。
7. 医療・福祉職の地域別平均年収
7-1. 医療・福祉職全般の傾向
医師や看護師、薬剤師、介護福祉士など、医療・福祉分野の職種は需要が非常に高く、特に高齢化社会が進行する日本においては将来性が高いとされています。一方で、職種による年収レンジの幅が大きく、医師は1,000万円以上が一般的な一方、介護福祉士などの介護職では300万円台が中心というように大きな差があります。看護師は平均年収で450~550万円程度、薬剤師は500~600万円程度が相場と言われています。
7-2. 首都圏における医療・福祉職
首都圏では、大病院や大学病院、専門クリニックが多数存在し、医師や看護師、薬剤師などの高度医療職の平均年収が高い傾向があります。看護師であれば500万円前後は十分に期待でき、夜勤や特殊業務手当などを加味すると、さらに上振れすることがあります。薬剤師については、病院勤務で450~600万円、調剤薬局勤務で400~550万円ほどが一般的ですが、都市部のドラッグストアや管理薬剤師などでは高年収が提示されるケースもあります。
介護職に関しては、首都圏でも依然として300~400万円台が多いですが、人手不足が深刻化していることから、徐々に給与水準が上昇している側面もあります。また、訪問看護や在宅介護など、在宅医療のニーズが高まっているため、そこに特化した事業所では高めの給与を設定していることもあります。
7-3. 関西圏における医療・福祉職
関西圏でも大阪を中心に大病院や大学病院が集まっており、高度医療に携わる人材の需要が高いです。看護師の平均年収は450~550万円程度とされ、首都圏と大きく変わらない水準です。一方、京都や神戸などでも医療機関や介護施設が多く、介護職のニーズも高まっていますが、年収は300~400万円程度が主流です。ただし、医療法人や社会福祉法人によっては、独自の手当や福利厚生が充実しており、全国平均よりも高い報酬を得られるケースもあります。
薬剤師については、調剤薬局やドラッグストアで400~550万円程度が一般的ですが、地域の医療体制を支える重要なポジションであることから、管理薬剤師やエリアマネージャーなどの役職に就くと600万円以上も可能です。
7-4. 東海地方における医療・福祉職
東海地方は製造業のイメージが強い一方、人口も多く、大都市圏があるため医療・福祉職の需要も非常に高いです。名古屋市や浜松市などは大きな病院が多数存在し、看護師や薬剤師の平均年収は450~550万円、介護職は300~400万円程度が多いようです。また、豊田市など企業城下町として発展してきた地域でも、福利厚生の充実した医療法人や介護施設が存在し、夜勤などを含めるとさらに上乗せされることがあります。
ただし、都市部を離れると医療機関や福祉施設の数が減り、求人も限られてきます。逆に、地方では慢性的な人手不足に悩む病院や施設も多く、年収や待遇を引き上げてでも人材を確保したいという声も少なくありません。そのため、スキルや経験がある方が地方の医療機関に転職する場合、好条件を提示されることもあるでしょう。
7-5. その他の地方都市における医療・福祉職
北海道や東北、九州、四国などの地方都市でも、高齢化が進んでいるため医療・福祉職の需要は高いですが、都市部と比べると平均年収はやや低めです。看護師で400~500万円、介護職で280~380万円程度が中心となるケースが多いでしょう。ただし、医師や歯科医師、薬剤師など資格職の場合、都市部から離れている地域での勤務では、高い給与や住宅補助・手当などが用意されるケースもあります。
また、地方では患者や利用者との距離が近く、地域に根差した医療や福祉サービスが提供されやすいため、「やりがい」や「生活の質」といった観点では都市部よりも満足度が高い場合があります。年収以外の要素も含めて総合的に判断すると、地方での医療・福祉職は十分に魅力的な選択肢となり得るでしょう。
8. 地域別平均年収格差の背景と今後の展望
ここまで職種別に地域ごとの平均年収を見てきましたが、全体的に首都圏や大都市圏である関西圏、東海地方の主要都市部が全国平均より高い水準にあることがわかります。一方、その他の地方都市では平均的に低めの傾向があるものの、大手企業の拠点や産業クラスターが形成されている地域では、思ったほど平均年収に差がなかったり、専門性や技術を磨くことで大都市圏以上の好待遇を得られる事例も存在します。
地域別の年収格差が生まれる主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 産業構造と企業集積: 大企業や外資系企業の本社・支社が集中する都市部では、必然的に高額な給与を提示しやすくなる。
- 生活コスト: 都市部は家賃や物価が高く、企業側もそれを加味した給与設定をする傾向がある。
- 人材需要と供給バランス: 地方は求人が少なく、求職者が多い場合には給与水準が上がりにくい。一方、特定の資格職や専門職が不足していれば、待遇が高くなる場合もある。
- リモートワークの普及: 最近はテレワークや在宅勤務が可能な職種が増えており、地域間格差の是正につながる動きも見られる。
今後、リモートワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)のさらなる進展、地方創生施策などにより、都市部と地方の年収格差は一定程度縮小していくと考えられています。また、個人が自らの専門性や技能を磨き、フリーランスや副業で収益源を増やす動きが活発化すれば、地域に縛られない働き方も十分に選択肢に入ってくるでしょう。
9. まとめと今後のキャリア選択のヒント
以上、主要な職種(営業、IT・エンジニア、事務・管理、専門・技術、医療・福祉)と地域別(首都圏、関西圏、東海地方、その他地方都市)の平均年収の大まかな傾向を見てきました。まとめると、以下のようになります。
- 営業職: インセンティブによるバラつきが大きい。都市部では400~600万円程度が多く、優秀な人材は1,000万円超えも可能。地方では300~400万円台が中心。
- IT・エンジニア職: 首都圏を中心に需要が高く、600万円以上を狙いやすい。地方でもリモートワークが普及し、年収差がやや縮小しつつある。
- 事務・管理職: 一般事務は300~400万円程度が多く、専門知識が必要な管理職や経理・人事は400~600万円も可能。地域差はあるが大企業かどうかが収入を左右する。
- 専門・技術職(製造・建設など): 企業規模や扱う技術分野によって大きく変動。大手メーカーやゼネコンでは高年収が期待できる。地方でも大企業の工場・プラントがあると高待遇が望める。
- 医療・福祉職: 職種による年収格差が大きい。医師や薬剤師は高年収を得やすいが、介護職は相対的に低め。地方では高い需要がある一方で、給与水準は都市部よりやや低め。
ご自身のキャリアを考える際には、単に「どこの地域なら年収が高いか」だけでなく、「どのような職種であれば自分の強みを活かせるか」「どんなスキルを磨けば将来的に年収が上がりやすいか」「生活コストや通勤時間も含めて、どのエリアで生活するのがベストか」など、総合的な視点を持つことが大切です。とりわけ、ITや先端技術領域に関してはスキルアップの速度が速く、首都圏以外で働きながら高年収を実現する事例も増えています。
また、転職や就職活動の際には、実際の求人票や企業情報を確認し、待遇面だけでなく職場環境や教育制度、福利厚生、社内文化などもチェックしましょう。平均年収はあくまで「平均値」であり、個人の努力次第で大きく上振れする可能性もあれば、あまり年収が伸びないケースもあります。自らの適性を見極めながら、将来設計をしていくことが何より重要です。
今後、日本の労働市場は少子高齢化の影響やグローバル競争の激化、DXの進展などによって、大きく変化していくことが予想されます。そんな環境下だからこそ、自ら学び続ける姿勢を持ち、常に情報をアップデートしながらキャリアを築いていくことで、地域や職種に縛られず多様な働き方が可能になるでしょう。